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2010.04.08 Thursday
日本の自動車メーカーで始めて公聴会に呼び出される



 トヨタ自動車は2月23、24日に米下院、3月2日に米上院の公聴会に呼び出されて、豊田章男社長、佐々木真一副社長と米国トヨタ販売会社のジム・レンツ社長が議員の厳しい質問に答えた。米国でフロアマットがアクセルブレーキに引っかかる事故とプリウスでリコール(改修・無償修理)をしたことが原因である。この米国の公聴会には08年11月にGMのワゴナー会長らビック3のトップが自家用のヘリコプター乗りつけたことで批判を受けたところである。ビック3は米国政府から資金援助を受けることから、公聴会に呼び出されたもの。日本の自動車メーカーのトヨタが世界中のマスコミが集まったところで米国の議員に答えるようになったのはグローバル化の象徴でもあるが、トヨタの品質に対する評価が世界的に落ちたことでもある。

 日本のメーカーではブリジストンがフォード車に載せたタイヤの事故で公聴会に出たことがあった以来のことである。自動車メーカーでは初めて。

 トヨタは04年に熊本県でハイラックスによる5人の負傷事故を起こして、33万台のリコールを届け出た。しかし、熊本県警は06年7月に業務上過失傷害罪で品質保証部長ら3人を書類送検して、問題になった。部品が問題であるにもかかわらず改善をしないで販売したためにこうした事故を起こした、という容疑である。04年には熊本の件を含めてトヨタは9件189万台のリコールをしており、品質については問題になっていた。(表2を参照)

 熊本県警が送検した時にトヨタは「その時点での3人の判断に誤りは無かった」という1枚の紙を記者クラブに配っただけであった。

 この当時、トヨタはGMやフォードを生産量で追い抜き世界一になるという時で、マスコミでは「トヨタのおごりが出た」と言われた。国土交通省は「トヨタ自動車は社内でのトラブル情報の共有などが不十分だった結果、リコールが遅れた」と判断して、当時の岩崎貞二自動車局長がトヨタの滝本正臣副社長(品質担当)を呼んで業務改善命令書を手渡した。滝本副社長は「このことを真摯(しんし)に受け止め、早急に改善策を報告する」と述べて、8月4日に「社内の意思疎通を良くする」という報告をした。

 当時の渡辺社長は「量を追うことにより、質に対する手抜かりがあった」と記者会見で話した。さらに品質の悪化を防ぐために今までの品質担当の滝本副社長に加えた豊田章男副社長(当時)を指名して2人体制にした。さらに品質担当の専務を置きトヨタ・モータ・ヨーロッパの佐々木真一社長を指名した。

 トヨタは05年4月にリコールの増加に対処するために生産・開発などの担当者を集めて品質向上の専門組織を社内で発足させ、改善策の洗い出しを進めた。不具合情報の保存期間を5年から10年に延ばすなどをした。

 豊田副社長は「部品の生産をするうえで問題があれば、言ってきてほしい。無理な納期があれば直ちに報告して欲しい」という文書を出して活動を始めている。

この豊田氏は09年6月に社長になり、佐々木氏は品質担当の副社長になった。品質問題には力を入れてきている2人がいたにもかかわらず、どうして同じ間違いを起こしてしまった。



 米国での生産に問題があったのか?



 今回のアクセルペダルとフロアマットは米国の部品メーカーで生産している。トヨタは海外の部品ケーカーにも日本と同じようにトヨタ生産方式を教え込んでいる。ところがトヨタ式の生産方式を身に着けている外国の社員は少ない。日本の工場に来てもらい研修する余裕がなくなっている。そのために日本で研修した米国の社員を先生役にして、教える制度を作っている。しかし、こうしたやり方ではなかなかトヨタの生産方式について理解が出来ない海外の工員が多い、という。組み立て工場ならまだ目が行き届くが、下請けまでは目が届かない。 

アクセルペダルの問題について部品メーカーにどこが悪いのか、という把握が遅かった、といえる。日本なら直ぐに部品メーカーに飛んでいけるが、米国では生産のやり方の違いもある。  

フロアマットが引っかかるのは、運転者の操作の仕方が悪い、という声が最初にあった。

そうしているうちにレクサスのアクセルが元に戻らないということで4人の死亡事故が起きてしまった。9月になってフロアマットの問題で約380万台のリコールを発表した。



 豊田社長が日本記者クラブで会見

 

53歳の豊田社長は09年10月2日に日本記者クラブで講演した。私は体育会系で立って挨拶するのは慣れていると、最初に大きな声で「皆さん。こんにちは」と呼びかけた。その後で「経営学者のジェームズ・C・コリンズさんは企業が没落する5段階という説を唱えています。第一段階は成功体験から生まれた自信過剰、第二段階は規律なき規模の追求、第三段階はリスクと危うさの否定、第四段階は救世主にすがる、第五段階は企業の存在価値が消滅です。トヨタは第四の段階にいます。誤解なきように願いますが、私が救世主ではありません。ドン底であることには変わりはありません。復活の鍵を握るのは人材であり、トヨタにはこの人材がおり、誇るべき宝物です」とトヨタの復活に自信を見せた。

米国で販売している車でフロアマットがずれてアクセルペダルが戻らない疑いが発覚したことについてはNHTSA(米道路交通安全局)と協力して解決に取り組んでおり、リコールするかどうかについては明言しなかった。4人が死んだことについては「なくなった方にはお悔やみ申し上げます」と述べた。しかし、その後7車種380万台のリコールを米国で発表した。

トヨタは、11月にレクサスの暴走事故を防ぐために「レクサス」の一部と「カムリ」「プリウス」など8車種を対象に2010年4月から形状を改良したアクセルペダルの交換に応じる、と発表した。表1で見られるようにフロアマットの問題とアクセルペダルの部品の不具合などで米国、欧州、中国などでリコールを発表していった。こうしたリコールを実施するとともにその対象になった8車種の生産と販売を米国で中止した。異例なことである。

 

 新型プリウスでもリコール



2010年2月に入ってトヨタの自慢の環境対応車である「プリウス」(09年5月発売)のブレーキについての苦情が米国で100件超、日本で13件寄せられていることが分かり国土交通省はトヨタに調査を指示した。この問題について2月2日に記者会見した佐々木副社長は「フィーリングの問題であり、欠陥ではないと思う」と発言して、対応がおかしいということになった。プリウスに対する苦情が次々にトヨタに寄せられてくるため4日に開いた緊急記者会見で横山常務役員は「ブレーキが利きにくいという苦情は09年11月に連絡が入り、12月から急増した。このためにトヨタは1月に電子制御プログラムの設定を変えるなどの改善策を打った」と発言した。ブレーキが瞬間的に利かなくなる30万台については無償で改修する、と5日に方針を決めた。こうした利用者の不安を解決するために5日に豊田社長、佐々木副社長は名古屋市内で緊急の記者会見して「多くのお客様にご心配をかけたことを心からお詫び申し上げます」と発言した。09年夏から米国で起きているリコール騒動で初めての記者会見だった。名古屋で行ったことで「何故、東京で行わなかったのか?」という声が出て、9日に豊田社長は東京で記者会見をして、新型のプリウスのブレーキ問題でリコールをすることを発表した。リコールは4車種22万3千台でこのうちプリウスは19万台である。

2月17日には東京で豊田社長と佐々木副社長が記者会見をして「品質関連の取り組み」について公表した。レクサスなどの国内のリコールの進み具合とともに電子スロット制御の安全性について「決して加速の方向に動くものではない」という安全性を訴えた。さらに品質向上の具体的な展開として各地域にお客の声を聞くために品質特別委員を任命して「グローバル品質特別委員会」を作り、第1回を10年3月30日に開く。米国では技術分室の増強により情報収集の網の目を細かくして24時間にない現地に着き一件一件調査できる体制を目指す、という。



 何故、こうした問題が起きたのか?



 2月17日の記者会見でこうした問題が起きたのかを聞かれた豊田社長は「トヨタ生産方式を越えて実需以上のものを作った。在庫を持たないということも守られずにつくりすぎていた。ジャストインタイムというやり方に戻したい」と述べた。世界一を目指して余分なものまで作ってしまった、ということである。米国の公聴会では豊田社長は「生産現場が増えたことで人の育成が間に合わなくなってしまった。トヨタの生産方式についてしらない社員が多くなって、品質についても問題が起きてしまった」と述べている。

また、会社が大きくなったことから組織が縦割りになり、その間の意思疎通が出来なくなってしまった、ということも公聴会では指摘されていた。

GM,クライスラーが09年に相次いで破産したことで、米国人のトヨタに対する反感も出ている。ある自動車メーカーの幹部は「米国の産業の柱である自動車が日本のトヨタやホンダに追い出されてしまったところに今回のフロアマットとアクセルペダルの問題が出て、騒ぎが大きくなった。中間選挙が10年秋にあることも公聴会をにぎやかにした。運が悪いことが重なった」と話していた。

また、あるトヨタ自動車を使っている人は「最近、トヨタの車は故障が多く、販売店に行っても不親切だ。傲慢になっていた」と言っており、こうしたことが今回のリコールの元になっているのかもしれない。



 トヨタはどこに行くのか?



トヨタは米国での10年1月の新車の売上げは16%減と全体では増加しているのに対照的な業績になった。内外でプリウスは環境に良いということもあり売れ行きは良かった。プリウスのリコールの影響で10年3月での決算は税引き後利益で赤字になるのではないか、と見られている。豊田社長は10年1月の時点で「嵐は嵐でも暴風雨に近い。それでも11月の時点では2千億円の赤字で8月の予想の4500億円よりよくなってきている。早期の黒字化を目指す」と話していたが、相次ぐリコールで赤字は増えるだろう。

今後の広報や海外戦略を見直すために「BR(ビジネスリフォーム)コミュニケーション改善室」を2月17日に新設した。担当は永田理・常務役員になる。豊田社長に09年6月になって広報や渉外担当を総入れ替えしたことが今回の広報体制などの遅れになった、という反省からである。

豊田社長は09年10月の日本記者クラブの記者会見のときに「心想事成」と記帳した。心に思ったことは必ず実現してゆく、との意味だそうだ。早い黒字化を念じている豊田社長だが、いつ黒字になるのだろうか? 



 
| この人に聞く | 19:25 | comments(0) | - | pookmark |
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