子供じみたキヤノン御手洗会長の振る舞い
2007.04.09 Monday
子供じみたキヤノン御手洗会長の振る舞い
財界総理の品格が疑われる
悪評だった斎藤経団連会長も広告出稿停止はせず
日本経団連の御手洗冨士夫会長の出身会社であるキヤノンが朝日新聞社と全面対決している。偽装請負キャンペーでキヤノンが問題になったり、政府の道路特定財源を一般財源にする政府の方針に対して、日本経団連会長の御手洗氏が腰が定まらないことで「二枚舌」と書かれたことから広告を全面ストップしている。それだけでなく、国立新美術館と朝日新聞社が主催したポンピドー・センター展「異邦人とそのパリ」の協賛を開催の2月7日の直前に下りてしまい、主催者側は急遽協賛会社を変更し、印刷物を刷りなおすというということまであった。キヤノンは日経主催のオルセー美術館展には協賛して派手に宣伝しているのにである。昨年5月に奥田碩会長(トヨタ自動車相談役)からバトンタッチして半年が経つのに、評判は下がる一方である。安倍晋三内閣が世論調査で支持率が落ちて行くのと同じ傾向を辿っている。
御手洗会長としては初めて精密工業界から出た財界総理だけに張り切っていろいろな事をしてきた。ところがマスコミは批判ばかりして良いところを見てくれないと言う不満がたまってきた。偽装請負キャンペーンでキヤノンを叩いた朝日新聞社が道路特定財源を一般財源にすると言う政府の方針に経済財政諮問会議の委員の御手洗会長がどっちつかずの態度を取ったことから、厳しく批判した事に広告のストップで対抗した。日本経団連の会長がこのような広告ストップをしたことは今までにないことである。発行部数が朝刊で800万部以上の朝日新聞に広告を10月27日まで出したのが、11月14日の二枚舌の記事が出てから一切出ていない。今年に入っても2月までは同じ事が続いている。協賛事業までも下りたことで、全面対決の様相を見せてきた。こうした動きは偽装請負で叩かれた松下電器産業も会長会社のキヤノンを見習って、朝日新聞への広告を停止している。
日本経団連の会長会見には出ている第一線の記者はこうした広告の停止は関係なく、相変わらず厳しい目で見ている。気に食わない記事が出ることは日本経団連の会長になればと当然でもある。6代目の会長であった斎藤英四郎・新日鉄会長は決断が遅く、肝心なことは記者会見でも話さなかったことで有名であった。酒とゴルフが好きで「御遊び仲間のサロンの経団連」と悪評だった。それでも広告の出稿を停止することはなかった。
決断しないで何でもOKの御手洗会長
御手洗会長の一番の問題は決断をしないことだろう。道路財源の一般財源へ繰り入れる問題でも財政諮問会議では、政府の一般財源にする事に賛成し、日本経団連に来るとトヨタ自動車の張富士夫会長の「道路財源は特定財源なのだから、一般財源にするなら税率を下げるなどすべきである」発言に頷く。これでは御手洗会長の考えはどちらか分からない。経済財政諮問会議の委員となれば、日本経団連の会長と違う立場を取ることもあっておかしくない。
御手洗会長は地方に出張して各地の経済団体と懇談する時に、新幹線や空港、道路整備の要望に賛成している。06年11月に福井で開かれた北陸地方経済懇談会では北陸新幹線に付いては検討すべきだ、と発言した。東海地方の懇談会では中部国際空港の滑走路増設や道路整備の要望に「賛同したい」と応じた。さらに北海道の新幹線延伸でも積極的な姿勢を見せた。歴代会長は臨調会長をした土光敏夫氏のように財政再建を優先させてこうした公共事業には反対をしてきた。小泉構造改革を支えた奥田会長は北陸新幹線に付いては「みんな満足させていたら日本の財政はパンクする」と突き放していた。御手洗会長のように何でもOKで大盤振る舞いするのは今までの会長では珍しいだろう。土光臨調を支えた日本経団連会長の魂はどこに行ったのだろうか?
偽装請負についても説明無し
朝日新聞社は偽装請負についてキャンペーンを張って、問題を指摘してきた。その結果、キヤノンの宇都宮工場や大分キヤノンで偽装請負が発覚して、各地の労働局から05年に文書指導された。06年10月には宇都宮光学機器事業所で偽装請負の形で働かされてきたレンズの製造に携わる4人が「正社員として雇用するよう」に申し入れた。この4人は06年5月までの1年間は派遣労働者として働いたが、それ以外の期間はキヤノンから生産を請け負った人材会社の労働者として働いていたが、実際はキヤノンの指揮命令を受ける偽装請負が続いていた、という。1年以上派遣で働いていたので労働者派遣法でキヤノンの直接雇用の義務が生じる、と訴えている。
この労働者は07年2月の偽装請負についての公聴会で「キヤノンは派遣と請負を繰り返していた」と発言した。これを受けて民主党の枝野幸男議員が「キヤノンで請負と派遣が繰り返されていた、と公聴会で証言があった。こうした状態は許されるのか」と追求した。さらに枝野議員は「御手洗氏は経済財政諮問会議の委員としてふさわしくない」と参考人として招くことを求めた。
こうした事態になっても御手洗氏は、社内に「外部要員管理適正化委員会」を作って改善していると、述べるだけである。具体的な改善策には発言していない。
銀行の政治献金の再開でもミソつける
日本経団連は奥田会長の時から政治献金を再開した。トヨタ自動車が6440万円を献金するなど、「金も口も出す」という体制になった。今まで外資が50%を越えていたキヤノンも06年12月に政治資金規正法の改正が実施されたことで、約3千万円の政治資金を出した。こうした中で、銀行は公的資金が投入されていたことで政治献金は自粛してきた。06年度末に公的資金を相次いで返上したメガバンクは御手洗会長の指示で献金再開に動いた。日本経団連の副会長に三木繁光会長を出している三菱東京UFJ銀行は畔柳信雄頭取が、いち早く9年ぶりの再開を決めた。キヤノンと同じ3千万円を出すことで行内の根回しを終えた。12月中旬に記者会見で発表したところ、同じ日に自民党の安倍総裁が「銀行からの献金は自粛する」という発言をした。はしごをはずされた三菱東京UFJ銀行は大恥をかいた。日本経団連の政治資金担当の宮原賢次副会長(住友商事会長)も怒り心頭に達した、といわれる。宮原副会長は07年の1月24日に開かれた国民政治協会の新年会に欠席をして、自民党に抗議の気持ちをぶつけた、といわれる。こうした事態に対しても御手洗会長は安倍総裁に対して文句の一つも言っていない、といわれている。安倍総裁の「美しい国」と御手洗会長の「希望の国」が同じだと喜んでいるのは良いが、このようにはしごをはずされた日本経団連はもっと文句をいってもよいのではないか、という不満がメガバンクを中心に出ている。
御手洗ビジョンについても品川経済同友会終身幹事が反対
御手洗会長は07年1月に「希望の国・日本」という御手洗ビジョンを発表した。4年前に奥田会長が「活力と魅力溢れる日本を目指して」という奥田ビジョンを発表したと同じやり方を踏襲した。御手洗ビジョンは1966年から89年まで23年間米国にいたことが下敷きになっている。アポロ11号の有人月面着陸に代表される偉業を達成した後、べトナムからの撤退や深刻な経済低低を体験し、それを克服して90年代のニューエコノミーと呼ばれる奇跡の復活にいたるまでの期間である。特に81年のレーガン大統領の登場で、強いアメリカへの地図ができた、という。これに習って日本の10年後のあるべき姿を目標として示し、これを確実なものとする具体策「ロードマップ」を書き込んだ。
目指す国の形として「精神面を含めより豊かな生活」「世界から尊敬され親しみをもたれる国」「開かれた機会、公平な競争に支えられた社会」を上げて、19の優先課題を挙げている。その中には道州制、労働市場改革、教育の再生が含まれている。憲法改正についても具体的な政治日程に載せるためのお取り組みを進める、と書いている
この御手洗ビジョンに対して朝日新聞は「国旗・国家を企業も尊重を」「財界 変わる歴史観 戦中派退き政権と歩調」という見出しで次のように解説した。
「このビジョンは経済分野よりも歴史認識や思想、心情への言及が目立つ。安倍政権を思想面で支えていこうとする意図が読み取れる」
読売新聞は「2011年までに消費税を2%上げの提言、財政再建に強い危機感」などと書いているのに比べて、偏っていると批判する経済人も多い。しかし、経済同友会で速水優代表幹事の時代に副代表幹事・専務理事を務めた終身幹事の品川正治・元日本火災海上社長(82)は「私は御手洗ビジョンは認めない。米国崇拝、成長原理主義者が作った傲慢極まりない代物を全否定する」と月刊現代4月号で書いている。また、週刊朝日2月9日号では「法人税の減税、消費税の引き上げ、ホワイトカラーエグゼプション(残業代ゼロ)など政治へのおねだりは高くつく」と批判している。
このほか、連合の高木剛会長は御手洗会長に対して「品格も責任の自覚も感じない」と述べている。
朝日新聞への広告出稿停止
キヤノンは07年12月期の連結決算では前期比で9%の増益で4950億円と8期連続で過去最高になる。レーザープリンターなどの事務機やデジタルカメラが好調なことが要因になっている。このキヤノンが06年10月27日に朝日新聞に一面広告を出して以来、2月末現在まで全然出なくなった。その一方で日経や読売、毎日、東京中日、産経などにはちゃんと出ている。クリスマス商戦真っ盛りの12月20日には6人がみどりの枠を顔につけて「人が撮りたいのは、人の顔」という文句で「世界一新、写真を美しくするのはデジタル新技術」という言葉が続いている。21日も緑の枠を顔につけた親子がきれいな花のそばで写真に写っている。これでもかとばかりに22日も「思い出は、写真の顔に残る」と男女二人が緑の枠をつけた写真を出している。23日も風景写真と人物写真が出ていた。4日間連続で一面の派手な広告である。
07年に入っても朝日以外の新聞社には「娘を撮らしたら、私は誰にも負けない」「どの一瞬も最高の感動でプリントしてしまう」という広告が出ている。朝日新聞ではこうした全国通しの一面広告は3千万円が相場であり全然取れないのはいたい。それでなくても少子高齢化やデジタル化で若者の新聞離れで広告が減っている中でのキヤノンの広告出稿停止である。ある朝日新聞の幹部は他社の派手な広告を横目で見ながら「キヤノンには文句を言いたいが、記事の問題で出さないというのでは我慢するしかない。それにしても連日のようにライバル社の派手な広告をみるとやるせないですよ。社内ではワンマンの御手洗会長もこうした出稿停止を辞めさせることが出来ないんですかね。キヤノンのやることは子供じみていますね」と嘆いていた。
こうした広告出稿停止について、キヤノンの矢野文之広報部長は次のように電話で答えた。
「確かに朝日新聞には11月14日の二枚舌の記事が出てからキヤノンの環境、技術の広告は出していません。二枚舌という表現に御手洗会長が怒っているということを配慮してやめたということです。いつまでこの広告の出稿停止が続くかについては、渉外本部にあるコーポレートコミュニケーションセンターが決めることで分かりません。美術展の協賛を止めたことについてもコーポレートコミュニケーションセンターが決めたことで分かりません。しかし、キヤノン・マーケティング・ジャパン(旧キヤノン販売)は毎週土曜日に製品の広告は続けています」
キヤノンの3代目の社長であった賀来龍三郎氏は社長退任のときに「財界活動は嫌いだ」と発言しながら、当時の石原俊経済同友会代表幹事に口説かれて副代表幹事になった。この賀来氏は石原代表幹事から速水代表幹事になった最初の記者会見で中曽根康弘議員がリクルート事件で離党した後、復党した問題で「今の政治家には理念も哲学もない」と発言した。リクルート事件について何も反省せずに復党したことを怒っての発言である。この発言に対して当時の自民党の西岡武夫総務会長が怒って討論しようと申し入れた。これに対して一歩も引かずに賀来氏は応じる構えであった。最終的には河合三良専務理事が竹下登元首相と話をつけて夏のセミナーで話をすることになった。
賀来氏も品川氏も政治に対して一線を画して、言うべきことは言うという姿勢が必要だということでもある。それに対して御手洗会長は安倍総理の政策にすべて乗っており、自ら経団連の月刊誌「経済Trend」1月号で対談して「美しい国と希望の国には合い通じるものがありますね」と話している。政財癒着の批判も出ている。
財界総理に求められる品格
藤原正彦氏が書いた「国家の品格」(新潮新書)がベストセラーになっている。英語より国語、民主主義よりも武士道精神であり「国家の品格」を取り戻すべきである、と主張したことに国民が共感した。歴代の日本経団連の会長には品格があった。2代目の石坂泰三氏は資本自由化に反対するトヨタ自動車工業の石田退三氏に対して「大人が乳母車に乗っているのはおかしい」と自由化を率先して進めた。めざしを食べるなど質素な生活の中から学校経営の資金を出していた土光敏男さんや読書家で2万冊の蔵書を持つ平岩外四さんなどあげればきりがない。
御手洗氏は06年10月に朝日新書で「強いニッポン」という本を出版した。この中で「リーダーよ、出でよ」で内田恒二副社長を社長に選んだ理由について「私心がない」ことあげて次のように書いている。
「自らの利害得失にかかわらず、私心のない使命感をモチベーションにして生きることが出来る人だけがリーダーたりえる。自戒をこめてそう言っておく」
稲盛和夫・京セラ名誉会長は、第二電電を作るときに「動機善なりや 私心なかりしか」と自らに問うた。今回の一連のカネに物を言わせて言論を封じようとしている御手洗会長は、財界総理として品格がなさ過ぎるといってよいだろう。
財界総理の品格が疑われる
悪評だった斎藤経団連会長も広告出稿停止はせず
日本経団連の御手洗冨士夫会長の出身会社であるキヤノンが朝日新聞社と全面対決している。偽装請負キャンペーでキヤノンが問題になったり、政府の道路特定財源を一般財源にする政府の方針に対して、日本経団連会長の御手洗氏が腰が定まらないことで「二枚舌」と書かれたことから広告を全面ストップしている。それだけでなく、国立新美術館と朝日新聞社が主催したポンピドー・センター展「異邦人とそのパリ」の協賛を開催の2月7日の直前に下りてしまい、主催者側は急遽協賛会社を変更し、印刷物を刷りなおすというということまであった。キヤノンは日経主催のオルセー美術館展には協賛して派手に宣伝しているのにである。昨年5月に奥田碩会長(トヨタ自動車相談役)からバトンタッチして半年が経つのに、評判は下がる一方である。安倍晋三内閣が世論調査で支持率が落ちて行くのと同じ傾向を辿っている。
御手洗会長としては初めて精密工業界から出た財界総理だけに張り切っていろいろな事をしてきた。ところがマスコミは批判ばかりして良いところを見てくれないと言う不満がたまってきた。偽装請負キャンペーンでキヤノンを叩いた朝日新聞社が道路特定財源を一般財源にすると言う政府の方針に経済財政諮問会議の委員の御手洗会長がどっちつかずの態度を取ったことから、厳しく批判した事に広告のストップで対抗した。日本経団連の会長がこのような広告ストップをしたことは今までにないことである。発行部数が朝刊で800万部以上の朝日新聞に広告を10月27日まで出したのが、11月14日の二枚舌の記事が出てから一切出ていない。今年に入っても2月までは同じ事が続いている。協賛事業までも下りたことで、全面対決の様相を見せてきた。こうした動きは偽装請負で叩かれた松下電器産業も会長会社のキヤノンを見習って、朝日新聞への広告を停止している。
日本経団連の会長会見には出ている第一線の記者はこうした広告の停止は関係なく、相変わらず厳しい目で見ている。気に食わない記事が出ることは日本経団連の会長になればと当然でもある。6代目の会長であった斎藤英四郎・新日鉄会長は決断が遅く、肝心なことは記者会見でも話さなかったことで有名であった。酒とゴルフが好きで「御遊び仲間のサロンの経団連」と悪評だった。それでも広告の出稿を停止することはなかった。
決断しないで何でもOKの御手洗会長
御手洗会長の一番の問題は決断をしないことだろう。道路財源の一般財源へ繰り入れる問題でも財政諮問会議では、政府の一般財源にする事に賛成し、日本経団連に来るとトヨタ自動車の張富士夫会長の「道路財源は特定財源なのだから、一般財源にするなら税率を下げるなどすべきである」発言に頷く。これでは御手洗会長の考えはどちらか分からない。経済財政諮問会議の委員となれば、日本経団連の会長と違う立場を取ることもあっておかしくない。
御手洗会長は地方に出張して各地の経済団体と懇談する時に、新幹線や空港、道路整備の要望に賛成している。06年11月に福井で開かれた北陸地方経済懇談会では北陸新幹線に付いては検討すべきだ、と発言した。東海地方の懇談会では中部国際空港の滑走路増設や道路整備の要望に「賛同したい」と応じた。さらに北海道の新幹線延伸でも積極的な姿勢を見せた。歴代会長は臨調会長をした土光敏夫氏のように財政再建を優先させてこうした公共事業には反対をしてきた。小泉構造改革を支えた奥田会長は北陸新幹線に付いては「みんな満足させていたら日本の財政はパンクする」と突き放していた。御手洗会長のように何でもOKで大盤振る舞いするのは今までの会長では珍しいだろう。土光臨調を支えた日本経団連会長の魂はどこに行ったのだろうか?
偽装請負についても説明無し
朝日新聞社は偽装請負についてキャンペーンを張って、問題を指摘してきた。その結果、キヤノンの宇都宮工場や大分キヤノンで偽装請負が発覚して、各地の労働局から05年に文書指導された。06年10月には宇都宮光学機器事業所で偽装請負の形で働かされてきたレンズの製造に携わる4人が「正社員として雇用するよう」に申し入れた。この4人は06年5月までの1年間は派遣労働者として働いたが、それ以外の期間はキヤノンから生産を請け負った人材会社の労働者として働いていたが、実際はキヤノンの指揮命令を受ける偽装請負が続いていた、という。1年以上派遣で働いていたので労働者派遣法でキヤノンの直接雇用の義務が生じる、と訴えている。
この労働者は07年2月の偽装請負についての公聴会で「キヤノンは派遣と請負を繰り返していた」と発言した。これを受けて民主党の枝野幸男議員が「キヤノンで請負と派遣が繰り返されていた、と公聴会で証言があった。こうした状態は許されるのか」と追求した。さらに枝野議員は「御手洗氏は経済財政諮問会議の委員としてふさわしくない」と参考人として招くことを求めた。
こうした事態になっても御手洗氏は、社内に「外部要員管理適正化委員会」を作って改善していると、述べるだけである。具体的な改善策には発言していない。
銀行の政治献金の再開でもミソつける
日本経団連は奥田会長の時から政治献金を再開した。トヨタ自動車が6440万円を献金するなど、「金も口も出す」という体制になった。今まで外資が50%を越えていたキヤノンも06年12月に政治資金規正法の改正が実施されたことで、約3千万円の政治資金を出した。こうした中で、銀行は公的資金が投入されていたことで政治献金は自粛してきた。06年度末に公的資金を相次いで返上したメガバンクは御手洗会長の指示で献金再開に動いた。日本経団連の副会長に三木繁光会長を出している三菱東京UFJ銀行は畔柳信雄頭取が、いち早く9年ぶりの再開を決めた。キヤノンと同じ3千万円を出すことで行内の根回しを終えた。12月中旬に記者会見で発表したところ、同じ日に自民党の安倍総裁が「銀行からの献金は自粛する」という発言をした。はしごをはずされた三菱東京UFJ銀行は大恥をかいた。日本経団連の政治資金担当の宮原賢次副会長(住友商事会長)も怒り心頭に達した、といわれる。宮原副会長は07年の1月24日に開かれた国民政治協会の新年会に欠席をして、自民党に抗議の気持ちをぶつけた、といわれる。こうした事態に対しても御手洗会長は安倍総裁に対して文句の一つも言っていない、といわれている。安倍総裁の「美しい国」と御手洗会長の「希望の国」が同じだと喜んでいるのは良いが、このようにはしごをはずされた日本経団連はもっと文句をいってもよいのではないか、という不満がメガバンクを中心に出ている。
御手洗ビジョンについても品川経済同友会終身幹事が反対
御手洗会長は07年1月に「希望の国・日本」という御手洗ビジョンを発表した。4年前に奥田会長が「活力と魅力溢れる日本を目指して」という奥田ビジョンを発表したと同じやり方を踏襲した。御手洗ビジョンは1966年から89年まで23年間米国にいたことが下敷きになっている。アポロ11号の有人月面着陸に代表される偉業を達成した後、べトナムからの撤退や深刻な経済低低を体験し、それを克服して90年代のニューエコノミーと呼ばれる奇跡の復活にいたるまでの期間である。特に81年のレーガン大統領の登場で、強いアメリカへの地図ができた、という。これに習って日本の10年後のあるべき姿を目標として示し、これを確実なものとする具体策「ロードマップ」を書き込んだ。
目指す国の形として「精神面を含めより豊かな生活」「世界から尊敬され親しみをもたれる国」「開かれた機会、公平な競争に支えられた社会」を上げて、19の優先課題を挙げている。その中には道州制、労働市場改革、教育の再生が含まれている。憲法改正についても具体的な政治日程に載せるためのお取り組みを進める、と書いている
この御手洗ビジョンに対して朝日新聞は「国旗・国家を企業も尊重を」「財界 変わる歴史観 戦中派退き政権と歩調」という見出しで次のように解説した。
「このビジョンは経済分野よりも歴史認識や思想、心情への言及が目立つ。安倍政権を思想面で支えていこうとする意図が読み取れる」
読売新聞は「2011年までに消費税を2%上げの提言、財政再建に強い危機感」などと書いているのに比べて、偏っていると批判する経済人も多い。しかし、経済同友会で速水優代表幹事の時代に副代表幹事・専務理事を務めた終身幹事の品川正治・元日本火災海上社長(82)は「私は御手洗ビジョンは認めない。米国崇拝、成長原理主義者が作った傲慢極まりない代物を全否定する」と月刊現代4月号で書いている。また、週刊朝日2月9日号では「法人税の減税、消費税の引き上げ、ホワイトカラーエグゼプション(残業代ゼロ)など政治へのおねだりは高くつく」と批判している。
このほか、連合の高木剛会長は御手洗会長に対して「品格も責任の自覚も感じない」と述べている。
朝日新聞への広告出稿停止
キヤノンは07年12月期の連結決算では前期比で9%の増益で4950億円と8期連続で過去最高になる。レーザープリンターなどの事務機やデジタルカメラが好調なことが要因になっている。このキヤノンが06年10月27日に朝日新聞に一面広告を出して以来、2月末現在まで全然出なくなった。その一方で日経や読売、毎日、東京中日、産経などにはちゃんと出ている。クリスマス商戦真っ盛りの12月20日には6人がみどりの枠を顔につけて「人が撮りたいのは、人の顔」という文句で「世界一新、写真を美しくするのはデジタル新技術」という言葉が続いている。21日も緑の枠を顔につけた親子がきれいな花のそばで写真に写っている。これでもかとばかりに22日も「思い出は、写真の顔に残る」と男女二人が緑の枠をつけた写真を出している。23日も風景写真と人物写真が出ていた。4日間連続で一面の派手な広告である。
07年に入っても朝日以外の新聞社には「娘を撮らしたら、私は誰にも負けない」「どの一瞬も最高の感動でプリントしてしまう」という広告が出ている。朝日新聞ではこうした全国通しの一面広告は3千万円が相場であり全然取れないのはいたい。それでなくても少子高齢化やデジタル化で若者の新聞離れで広告が減っている中でのキヤノンの広告出稿停止である。ある朝日新聞の幹部は他社の派手な広告を横目で見ながら「キヤノンには文句を言いたいが、記事の問題で出さないというのでは我慢するしかない。それにしても連日のようにライバル社の派手な広告をみるとやるせないですよ。社内ではワンマンの御手洗会長もこうした出稿停止を辞めさせることが出来ないんですかね。キヤノンのやることは子供じみていますね」と嘆いていた。
こうした広告出稿停止について、キヤノンの矢野文之広報部長は次のように電話で答えた。
「確かに朝日新聞には11月14日の二枚舌の記事が出てからキヤノンの環境、技術の広告は出していません。二枚舌という表現に御手洗会長が怒っているということを配慮してやめたということです。いつまでこの広告の出稿停止が続くかについては、渉外本部にあるコーポレートコミュニケーションセンターが決めることで分かりません。美術展の協賛を止めたことについてもコーポレートコミュニケーションセンターが決めたことで分かりません。しかし、キヤノン・マーケティング・ジャパン(旧キヤノン販売)は毎週土曜日に製品の広告は続けています」
キヤノンの3代目の社長であった賀来龍三郎氏は社長退任のときに「財界活動は嫌いだ」と発言しながら、当時の石原俊経済同友会代表幹事に口説かれて副代表幹事になった。この賀来氏は石原代表幹事から速水代表幹事になった最初の記者会見で中曽根康弘議員がリクルート事件で離党した後、復党した問題で「今の政治家には理念も哲学もない」と発言した。リクルート事件について何も反省せずに復党したことを怒っての発言である。この発言に対して当時の自民党の西岡武夫総務会長が怒って討論しようと申し入れた。これに対して一歩も引かずに賀来氏は応じる構えであった。最終的には河合三良専務理事が竹下登元首相と話をつけて夏のセミナーで話をすることになった。
賀来氏も品川氏も政治に対して一線を画して、言うべきことは言うという姿勢が必要だということでもある。それに対して御手洗会長は安倍総理の政策にすべて乗っており、自ら経団連の月刊誌「経済Trend」1月号で対談して「美しい国と希望の国には合い通じるものがありますね」と話している。政財癒着の批判も出ている。
財界総理に求められる品格
藤原正彦氏が書いた「国家の品格」(新潮新書)がベストセラーになっている。英語より国語、民主主義よりも武士道精神であり「国家の品格」を取り戻すべきである、と主張したことに国民が共感した。歴代の日本経団連の会長には品格があった。2代目の石坂泰三氏は資本自由化に反対するトヨタ自動車工業の石田退三氏に対して「大人が乳母車に乗っているのはおかしい」と自由化を率先して進めた。めざしを食べるなど質素な生活の中から学校経営の資金を出していた土光敏男さんや読書家で2万冊の蔵書を持つ平岩外四さんなどあげればきりがない。
御手洗氏は06年10月に朝日新書で「強いニッポン」という本を出版した。この中で「リーダーよ、出でよ」で内田恒二副社長を社長に選んだ理由について「私心がない」ことあげて次のように書いている。
「自らの利害得失にかかわらず、私心のない使命感をモチベーションにして生きることが出来る人だけがリーダーたりえる。自戒をこめてそう言っておく」
稲盛和夫・京セラ名誉会長は、第二電電を作るときに「動機善なりや 私心なかりしか」と自らに問うた。今回の一連のカネに物を言わせて言論を封じようとしている御手洗会長は、財界総理として品格がなさ過ぎるといってよいだろう。